沢野建設工房の歴史
株式会社沢野建設工房 会長 澤野利春
明治16年に初代澤野幸松が丁稚奉公人を抱えて河北郡宇ノ気町で開業した。2代目幸吉は、大正から昭和初期に尋常小学校校舎や講堂の新築を担う。3代目吉雄は、戦後から高度経済成長期に寺社仏閣・古民家なども手掛け、大工の棟梁としても多くの弟子を輩出した。昭和46年に木材料の仕入れルートを開発し、独自の材料で建築請負業を始める。当時より「大工職人の技術がどんなに優れていても、木材が十分に乾燥していなければ最終的に良い家にならない」という信条であった。昭和55年に現在の宇ノ気に第一号工場を、その後も、資材の自然乾燥スペースを広げるため、2号棟、3号棟、4号棟などや加工場、乾燥場を建築した。平成16年より、私が4代目社長となりました。私は、匠の一人として『家を建てる人が代々保有している山林の立木を伐採後、製材して一年以上天然乾燥させて構造材として使用する』そんな家づくりが盛んだった時代を経験してきました。その中では、木と直接会話をしながら樹種や木材選びを行ったように、人一倍精通した木材の目利きが発揮できると自負しています。



木と匠の技

当社が造った多くの建物が、100年を超えても使われている現状があります。その建物では、どんな木を使っているわけではありません。たとえば貼り合わせて生成された木材はいつか剝がれますし、薬剤を使うことで木は本来の生命力を失ってしまいます。長い歳月を越える住まいをつくるために、自然や森のなかで育った天然で良質の木材を見極め、匠の智慧と技を行き渡らせた家づくりを守り続けてきました。
天然木を生かし自然環境に近い家づくりに取り組む私にとって、木材選びは最優先です。そのためには、木の特性が樹種によっても部位によっても異なることから、決して木材の買い付けを他人には任せません。
すなわち、全国各地の生産地を自ら訪れ、見て、触れて、「これぞ」と思う原木だけを厳選して仕入れます。防蟻処理を必要とするものは、良木とは見なさず、一切使いません。樹種や木材に精通した職人のみが真の良木を、一本一本の性格や特性を見て、使う場所を思い描きながら選定していくのです。


天然無垢材・自然乾燥へのこだわり
代々にわたり木と対話を続けてきました。その中で、天然無垢材を使用した在来軸組工法による注文住宅を提供しています。自然の香りが豊かで、健康に配慮された設計が特徴です。具体的には、ヒノキやヒバなどの無垢材を使用し、化学物質を使わずに建築するため、アレルギーやシックハウス症候群のリスクが低減されます。
木材は、乾燥により強度が発現します。製材した木は風通しの良い工房で基本3年以上、樹種によってはじっくり何十年も天然乾燥させ、気候風土に馴染ませてから使用します。天然乾燥させた木は、高温で素早く処理する人工乾燥と異なり、防蟻成分を含んだ油分の揮発が抑えられ、シロアリ対策に有効です。またストレスを与えられていない分、粘りや香り、色艶など木そのものの魅力が残ります。手間と時間のかかる天然乾燥を推奨し、人工的に養生された無垢材に比べると、その強度や耐久性、美しさが段違いに大きく発揮されます。つまり自然本来の力を生かした、より「本物」の度合いが高品質の家を実現するのです。
適材適所
適材適所の意味は、「材」は木材の材を意味し、本来は「建築用語」の熟語です。木の特性を熟知している木の職人だからこそ、樹種の特性を充分に発揮できる場所も分かります。例えば土台や床組に使うのは、年輪が細かく、湿気やシロアリに強い「ヒノキ」と「ヒバ」などの無垢材です。集成材は一切使いません。床下地には合板ではなく「国産杉の赤身」や「ヒノキ」を使用します。このように、樹種の特長を最大限に生かすことで、安心安全で長持ちする家ができあがります。例えば、土台材に湿気による腐り白蟻に強い青森県の青森ヒバ(草槙)、柱は狂いが少なく安定し年輪が細かく腐りにくい白蟻に強いカナディアン桧(米ヒバ)、多雪地域などの毎年大きな荷重を受ける梁・桁には粘り強い松(落葉松)をしっかり配置するなど、如何にも経年に於けるリスクを低減させる配慮を行い、後世までも残す工夫、配慮を行います。建物の造りには幾つもの腐り、白蟻等、木造の建物ではリスクの高い箇所が数多くあります。経年的なリスクを回避するには、適材適所の考えをしっかり落とし込んだ建物の造りが、絶対に大切だと考えます。
ゼロへの念想い
かつて建築の生産性や供給の面から新建材が多く製造される時期がありました。その時に、新建材を使用していたところ、お客さまの大切な住まいを建てる者として「本当にこれでいいのか?」と多くの疑問が抱くことがありました。例えば、木片を貼り合わせた集成材は、特に湿度の高い北陸では、いつか剥がれて隙間が空き、接着剤の匂いや成分が室内に広がります。シロアリ薬剤の効果は限定的で湿気に弱い部材は北陸では長く持ちません。結果、ビニールクロスを大量に使うと、室内で目が開けられなくなるほどでした。
それ以来、市場に出回っている安価で便利な新建材ではなく、昔から実績のある本物の部材を使うことが必要だと決意しました。住む人の健康のため、いくつかの新建材をなくすことに決めたのです。
そして、“7つをなくす”お約束「ゼロへの念想い」が生まれました。「念想い(おもい)」には、「念じるほど想う」という強い意味をこめています。
- 防蟻・防腐剤は使いません
- 集成材は使いません
- 構造用合板は使いません
- 防虫畳は使いません
- スレート瓦は使いません
- ビニールクロスは使いません
- 合板フローリングは使いません
匠を育てる


多くのメーカーや工務店で大工を雇わない中、私はベテランから若手まで多くの社内大工を抱え、技術向上に向けて、日々育成と努力を続けています。その理由はたった一つ、家族を守る器、いわゆる高い品質の住宅のモノつくりを維持するためです。
工期・利益を意識する外注や下請け大工とは異なり、社内大工は雇用の安心感から、ひとつひとつの作業に対して時間をかけて丁寧に行います。またメンテナンスやリフォームの際には、作業者である大工が直接家へお伺いし、反りやクセなど木の状態を観て、アドバイスや現場作業を行います。
創業以来守り続ける社内大工を雇用する姿勢、今後も社内大工を雇用するという姿勢は崩さず、次世代に活躍する”木の職人”を一人でも多く育て、お客様に安心と信頼を提供します。
木造で優れた耐震構造を持った伝統工法は、小学校や教育施設などをはじめ、一般の木造住宅でも注目されはじめています。しかし、伝統工法を本格的に行おうとしても、実務者である大工さんが「墨付け」や「木組み」を覚える機会がありません。
そこで、世界に誇る日本の建築様式である伝統工法を次世代につないでいきたいと、基本となる「墨付け」や「手刻み加工」を学べる大きな建屋「伝統工法伝承棟」をつくりました。古い工場を解体したときの古材を使い、すべて若い大工職人の墨つけと手刻み加工によるものです。
(つづく)
